ソニーCSL京都(開設にまつわる雑文)

March 24, 2020

時期が時期なので世間的には重要度の低いニュースかもしれないが、先日プレスリリースがあったように僕が所属するソニーコンピュータサイエンス研究所は今年の春、京都に新しい研究拠点(京都研究室、Sony CSL Kyoto)を設立する。僕も立ち上げチームに入っているので、コロナウィルス問題が一段落すれば東京と京都を行ったり来たりする生活になりそうだ。下準備で去年から何往復もしているけれど、新幹線だと品川から京都まで二時間しかかからないし、座って仕事もできるからそれほど遠いとは感じない。

CSL京都において我々は、近年の技術革新が生み出した影の部分を見据えた研究を進めたいと考えている。徹底した快適さや効率性、絶え間ない刺激や娯楽といった価値の追求がもたらした歪みを直視したい。人や社会にとって「ゆたかさ」(豊かさ、ではない──所長の暦本さんが平仮名で書くことにこだわっているのだ)とは何か、その意味を改めて問い直し、万人に恩恵をもたらす新たな技術開発の道筋を模索したい。Society 5.0というディストピア(!)からこぼれ落ちる価値をすくい上げたいのだ。

インターネット・カルチャーの発展は、誰もが自由に発言し、交流し、創造し合う真に民主的な世界を実現することに成功しただろうか?それとも正確な情報や冷静な議論が埋没し、センセーショナルな嘘や芝居じみた義憤が山火事のように広がる無法地帯へと世の中を変えてしまっただろうか。絶えずスマートフォンを持ち歩く我々は、生産性や創造性の強化された、電子的に拡張された知能を持つ新人類へと進化したのだろうか?それとも公共に背を向け、取り憑かれたように画面に見入る、受け身な人形のような存在へと退化したのだろうか。世界各地で進むスマートシティ計画は、最新のインフラによって送電も交通も廃棄物処理も隅々まで最適化された、安全で快適な理想郷を実現するだろうか?それとも一握りの企業が支配する、巨大な監視と誘導の装置へと都市を変えてしまうだろうか。

技術革新のもたらした影響は、肯定的なものばかりではない。かつて技術者が思い描いた素朴な理想と、2020年の情報技術の現実との間には様々な面で隔たりがある。CSL京都は、当初は研究員3名という小規模なチームで運営を開始するが、いずれは研究員の追加採用も行えるはずだし、近隣の大学など外部組織との連携も積極的に進めていきたいと考えている。ウィルス問題の影響で本格的な始動はもう少し先になりそうだけれど、我々の活動に興味を持っていただけたなら、今からでもご連絡いただければ幸いだ。 


竹内雄一郎
計算機科学者。トロント生まれ。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員、および一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事。東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、ハーバード大学デザイン大学院修士課程修了。ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所客員研究員、科学技術振興機構さきがけ研究者等を経て現職。情報工学と建築・都市デザインの境界領域の研究に従事。

YUICHIRO TAKEUCHI is a Toronto-born, Tokyo-based computer scientist whose work explores the intersection of digital technology and architecture / urban design. Currently he works as a researcher at Sony Computer Science Laboratories Kyoto, and also directs the nonprofit Wikitopia Institute. He holds a PhD in Informatics from The University of Tokyo, and an MDes from Harvard Graduate School of Design.