Sony CSL Kyoto 研究員公募

May 28, 2020

僕が所属するソニーCSL京都では、先日ポスドク研究員の公募を開始した。設立初年度ということで景気良く、ポスドクに加えてパーマネント(任期なし)の研究員も一気に何人か募集したいね、なんて意見も出ていたんだけど、最終的には無闇な拡大を目指すのではなく徐々に足場を固めていくという方針になった。任期は最長で3年だが(単年契約で、2度の更新の可能性がある)、年限が終わったら必ず他組織に移らないといけないというわけではない。本人が希望し、会社側の評価も高ければ、パーマネントな研究員へと移行する道もあるはずだ。

CSL京都は「ゆたかさ」をテーマとして掲げている。ここでいう「ゆたかさ」とは、具体的に何を指しているのか?すでに何度か質問を受けているが、実は明確な答えは用意されていない。我々CSL京都の設立メンバーはそれぞれ、世間におけるこれまでの技術開発の方向性、あり方に対して自分なりの異議を持っている。徹底した快適さや効率性、絶え間ない刺激や娯楽といった一握りの価値が一心不乱に追求される中で、こぼれ落ちている価値があると感じている。そうした、おぼろげで多様な価値を総称して「ゆたかさ」と呼んでいるにすぎない。つまりCSL京都は、はっきりと定義された「ゆたかさ」の実現に向けて邁進していく集団ではなく、人や社会にとって「ゆたかさ」とは何か、その意味を改めて問い直し、新たな技術開発の方向性を模索していく集団ということだ。今回のポスドクの募集では、こうした我々の活動の仲間になってくれる人を探している。研究分野は不問で、情報系でなくても問題ない(追記:これは2020年春の公募に限った話で、以降の公募では分野を限定して募集しているものもある)。

PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)誌上で2016年に発表された論説記事「Science in the Age of Selfies(セルフィー時代の科学)」にもあるように、今の研究者は研究活動それ自体に加えて(あるいは研究活動以上に)研究を世間にどう見せるか、研究者自身のパーソナリティを世間にどう売り込むかに多くのエフォートを割かざるを得なくなっている。そうしなければ必要な研究費も、安定したポジションも獲得できないのだ。こうした傾向は年々強まっていて、大学の先生や研究費配分に関わる公的機関の職員と話したりした感想では、今後もそれが変わることはなさそうだ。研究者は、一生懸命角度を調整しながらセルフィー(自撮り)を撮影する若者のように、自分がいかによく見えるかを絶えず計算し続けなければならない。「盛る」技術の優劣が、研究者のキャリアを決定づける。

ソニーCSLは企業の研究所ということもあって、昔から(上記のような風潮が一般的になる以前から)研究内容をどう見せ、どう売り込むか、つまり研究のマーケティングやブランディングの重要性を強く意識してきた。(「研究を売れ!」という題名の本を出したこともあるくらいだ。)新たな科学技術を創出するだけでなく、製品化を含む社会実装までつなげることも目指してきた研究所だから、必然的に一定の「セルフィー的」な努力が求められてきたのだ。HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)など、一般受けしやすい分野の研究が多く行われてきたのもその表れだろう。ただし我々は、セルフィーが研究それ自体よりも重要だと考えたことはない。現代の科学技術研究の一部に蔓延する、そのような根本的な錯誤に陥ったことはない。

セルフィーの加工に明け暮れる毎日に疲れた研究者は、ぜひ今回の公募に応募してほしい。表層的な、一発芸のような研究をやって、底の浅さがバレる前に次の一発芸に移行する──そんなことはもうやらなくていい。大きな理想に向かって、回り道をしながら少しずつ前進することが許される環境だ。まったくセルフィーを撮らなくていい、というわけではもちろんないのだけれど。


竹内雄一郎
計算機科学者。トロント生まれ。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員、および一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事。東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、ハーバード大学デザイン大学院修士課程修了。ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所客員研究員、科学技術振興機構さきがけ研究者等を経て現職。情報工学と建築・都市デザインの境界領域の研究に従事。

YUICHIRO TAKEUCHI is a Toronto-born, Tokyo-based computer scientist whose work explores the intersection of digital technology and architecture / urban design. Currently he works as a researcher at Sony Computer Science Laboratories Kyoto, and also directs the nonprofit Wikitopia Institute. He holds a PhD in Informatics from The University of Tokyo, and an MDes from Harvard Graduate School of Design.