5. アートとパブリックスペース

オラファー・エリアソン

パブリックスペース(公共空間)は今日しばしば、商業的な論理に従って構築されている。差異は脅威として、あるいは少なくとも不利益なものとされる。多様性は市場に流通する商品やライフスタイルの選択肢の問題でしかなく、それは人それぞれに違う生き方があるということを認めることとは程遠いものである。そして市場経済によるパブリックスペースの効率化・均質化がなされていないところでは、私たち自身がその効率化・均質化を推し進める役割を担ってしまっている。私たちはいつしか公共性とはなにか、社会の一員であるとはどういうことかを考えなくなってしまっている。


私は、パブリックスペースというものはもっとインクルーシブ(受容的)であるべきだと考えている。それまでなかったような考え方、出会ったことのない人々、そして予期せぬ出来事といったものとの出会いが期待できるような場所であるべきだ。公式に認められていないものや、商業的でないものも含めて、いろいろな活動が許容される場所であるべきだ。そのような空間を作りだすためには、その場の空気感(アトモスフィア)を考え、それが私たちにどのような感情を与えるかを考えなければならない。都市空間をどのようにデザインし、使いこなしていくのか、私たちは考え直さなければならない。政治家や都市計画者やデベロッパーが、アーティスト、社会学者、人類学者、歴史家、環境活動家、詩人、ダンサー、哲学者たちを自分たちの計画立案のテーブルに招き入れたらどうなるだろうか。本当の意味での多様性を生み出すためには多層的な考え方が欠かせない。さまざまな思考を持つ人々同士の対話が求められている。


パブリックスペースを作りだすためにアートにできることは何か。私は金沢で《Colour activity house》(2010)と題された小さなパビリオンをつくった。それは位置感覚と色彩が結びついた空間だ。パビリオンは日中は自然光に、夜になると人工照明に照らされる。訪れた人が作品の中を動き回ると、周囲の壁の色彩が絶えず混ざり合い、変化するように知覚される。


このように人々の空間体験に介入することで、私は私たちを取り巻く物理的な環境が中立でも自然でもなく、あるやり方で構築されたものであるということを問いかけたかったのだ。私はこのような批判的な問いかけがとても大切なことだと考えている。都市や建築において作用している(政治的、制度的な)規制や誘導は絶対的なものではなく、ある程度なら変革すらできるということを教えてくれる。《Colour activity house》では、減法混色の単純なカラースキームを使うことで、作品がどのように空間体験に作用しているか、そのやり方を明白にしている。それにより、周囲の環境をどのように知覚し、再構築するかについての責任を、訪れる人々に移譲しようと試みた。


私はひとりのアーティストとして、アートが都市環境の創造において重要な役割を果たせると信じている。アートは自己と社会に関する多層的な体験、経済的な価値には回収できない体験を喚起するものだ。アートは社会の中で、異なる人同士がひとつの体験を共有できるような空間、そして意見の相違があってもよい空間、そのような数少ない空間を作りだすことができるのだ。アートにおいて、差異は問題ではなく、むしろ喜ばしい事態なのだ。

オラファー・エリアソン
芸術家。彫刻・絵画・写真・建築・インスタレーションなど、ジャンルを横断した作品制作を行う。デンマーク王立芸術アカデミー卒業後、1995年ベルリンにてスタジオ・オラファー・エリアソン設立。代表作に《ウェザー・プロジェクト》《ハルパ》(ヘニング・ラーセン・アーキテクツとの共同設計)など。

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